引っ越し2

 5月に新しい会社で働き始めた最初のころ、毎日始業より1時間ほど前に最寄りの駅に着いて、カフェでコーヒーを飲みながら30分ほどダラダラと考え事をし、それから出社するという事を2週間ほど続けていた。どうにか職にありつけたということで心に余裕があるときに、余裕があることをやっておきたかったのだろうと思う。そういった余裕のある時間の中で、引っ越しをすることを考えていた。もともと今住んでいる一人暮らしの家は、前の会社の通勤時間を短くすることが目的で決めた場所だから、ここに住み続けている意味は今となってはそれほど無かった。


最初は一人暮らしを別の場所で、というふうに考えていた。ちょっとくらい通勤が遠くなっても、山に近い場所を選びたかった。今住んでいる街は河口に近く山が一切なくて、自転車で峠道を登ることが好きな自分にとってはなかなか毎週自転車を電車で運び山に行くのは大変だ。山に近い場所ならば家賃も今住んでいる場所よりはだんぜん少なくて済むだろうし、部屋も広くなるだろうし、堅牢な造りならローラーも出来るかもしれない。けれどお金が無いからすぐには引っ越せないな、早くて夏の終わりくらいになりそうだな、そういうふうな皮算用と賃貸物件の検索を朝やってから会社に行っていた。


そういったふうに思考を巡らせはじめて4日ほど経った日の朝、カフェで思い到ったことは、山に(比較的)近くて、ローラーが出来て、部屋も普通程度の広さで、家賃も少なくて済み、会社からの通勤も1時間程度で出来る、それは実家だよな!という結論だった。


そうして実家に戻る事を決めた。