1年前の同じ大会で

夜遅くまでメールをしていて、けれどもいつもと同じような時間に起きて、朝の冷え込みの中、自転車を洗った。洗った自転車はメンテナンスのためショップに持ち込んだ。

昨日は袖ヶ浦の耐久レースに出場してきた。この大会に出るのは2回目で、1回目は去年の今頃開催された。

1年前のその頃ぼくは仕事を辞めていて、転職活動をしていたのだけれど上手くいっていなかった。気持ちも落ち込んでいる時期で、お金もあまりなく、自転車も数ヶ月ろくに乗っておらず、そんな時にこのレースに参加した。行きたくも無かったし、行って何か楽しい事があるとも思えなかった。雨が降りひどく寒い日で、メンバーと車の中で震えながら出走時間まで過ごした。あらゆる意味で走るのに向いていない日で、この日にわざわざ本気を出す価値もその気持ちもないように思えた。

自分の番手が回ってきた時、数ヶ月ぶりに自転車に乗ってペダルを漕いだ。乗った途端に全力を出す気持ちが湧いてきた。30分の持ち時間の中、今の自分がどうだとか、昔どうだったかだとか、そういう事は一切意識の外にあり、ひたすら我武者羅に踏み込んだ。目一杯の力を出すことだけに集中していた。途中でやめたいとか、手を抜くだとか、体力を温存しようなどとは一つも考えなかった。ふらふらになりながら次のメンバーに手番を渡した。

今になってもなぜ、そういう気持ちが沸き起こってきたのか自分でもよく分からないのだけれど、自分が一切何も持っておらず自分自身の価値も否定され続けていると思っていた中で、目の前の道を全力で走る気持ちがある事に自分自身が凄く驚き、また感動をしたのを覚えている。自分は何もないけれど全力を出す事が可能なのだ、そう思った。こんな境遇にあっても、魂を爆発させる火種が自分の中に残っているという事が分かり、その発見はなんだかとても嬉しいことだった。

その日から少しして自転車のトレーニングを再開し、それからまた数ヶ月して、新しい仕事が決まった。面接には沢山落ちたけれど、そういう時には決まってこの大会の日の事が自然と思い出された。そうすると、またやってやるぞという気持ちが湧いて、心が折れず前に進む事ができた。

何もなかったあの頃から新しい仕事を得て、新しいメンバーがいて、自転車に乗り続けて少しは速くなって、そうしてまた1年がめぐり同じ大会に出場している。今また全てを失っても、たぶんこの日の事を思い出す。