『パイの物語』

少し前になるが、図書館で借りてきた『パイの物語』を読了した。2002年度のブッカー賞に選定されたもので、気にはなっていたものの読む機会を捉えられずにいた。少し前に映画化し、映画を観る前に読んでおこうかと思いたち、さらにしばらく過ぎた。最近図書館で予約をし、1ヶ月くらい待ったあとに読む機会に恵まれた。

前知識としてリチャード・パーカーの事件を知っていた方が理解が深まる。ぼくのばあい以前ネットサーフィンをしていた時に知っていた。

3部構成となっていて、1部は少々退屈なものの、2部から一気に引き込まれ、3部ではそこから更に驚かされる展開になる。非常に平易で読みやすい訳文という事もあるが、久しぶりに本に夢中になるという体験をした。2部は漂流ものとして抜群にリアリティがあり、ハラハラしながら読んだ。

リチャード・パーカー事件の前知識と、トラとの漂流ものという事で、生命倫理だとかそういったテーマを深く追求していくタイプの話だと思っていたら、全然違う方向から撃たれるような展開で、ずしんと心に残る本だった。読み返してみると、各所に薄ぼんやりと張られている伏線が思いのほか多いことに気付く。少し書くと、人が物語を信じるとはどういう事か、というのが問われている。本編では物語の他に『もう一つの物語』が語られるが、その二つに本質的な違いがあると思うか思わないか。そして、事実と物語の境界と、それを分ける意味。ネタバレを避けるために些か歯切れの悪い書き方になる。感想をネットでみるとわりと色々な視点があって、人によって印象が違うタイプの話なのかもしれない。

読み終わったあとに映画もDVDで観た。おおむね原作通りの出来で、漂流中の様子が映像だとちゃんと分かって良かった。テーマ(あくまでぼくがテーマと感じたもの)の見せ方はちょっとさらりとしてしまった印象があり、そこは原作のほうがちゃんと味わえるかなと感じた。