『ニューヨーク・ニューヨーク』

ニューヨーク・ニューヨーク

タクティクスオウガ松野泰己さんが、映画『LALALAND』の感想をツイートしていた際、この作品に言及されていたのを見て以来、観てみたいと思っていた。長らくなかなかレンタルでもビデオ配信でも見つからず諦めていたところ、ふと立ち寄ったTSUTAYAで見つけたので秒でレンタルした。

1945年、終戦パレードに沸くニューヨーク。帰還兵のジミーはパーティで、1人の女性を口説く。彼女フランシーヌには冷たくあしらわれてしまうが、ささいなトラブルがあり(ジミーはしめしめと)同行することになる。ジミーは天才肌のサックス吹きであり、そのオーディションに彼女も着いてくる。実は彼女もまた歌手であった。

162分。長い。

ジミーは天才という触れ込みだが、それゆえか、時代性なのか、かなりサイコパスな性格で描かれる。暴力を振るうシーンこそないものの、人によってはかなり不快感を覚える人もいるだろうと思う。自分としても相当ハラハラしながら観ていた。まず冒頭の口説きのシーンからかなりしつこい。その後も、よくキレる、行動が読めない、周りに迷惑をかける。こんなやつに対してフランシーヌは淑女として描かれる。まじ大人の対応。良い子。ていうかこんな男のどこが良いのだ。何が良くてフランシーヌはこいつと添い遂げようと思ったのか、疑問に思うレベル。男女どちらの主人公にも共感が難しい。だがまぁ男女というのはよくわからないものだから、ラブストーリーだし、これはこれで良いと思う。途中からサスペンスになるかと思ったけどならなかった。それくらいジミーの性格にハラハラする。人によってはイライラすると思う。

ジミーは楽団に入るが、楽団の興行もなかなかうまくいかない。フランシーヌのほうは逆にうまくいってしまう。それがジミーは面白くない。そういう面倒な人間関係も描かれる。LALALANDのテーマでもあった、仕事と恋愛(家庭)にどう折り合いをつけるか、あるいはつけないのか。ライブと商業音楽(CM、ラジオ)、古いものと新しいもの、という対比もあるのだろう。LALALANDのほうがこちらをオマージュしたのだろうが、ストーリーラインはかなり似たような展開をなぞる。ビジュアルもLALALANDがオマージュしているシーンが多く、そういった部分を探しながら観るのも楽しい。

音楽とミュージカルのシーンはほぼ生演奏であり、曲も演奏もとても良い。時代の音楽だが、いま聴いても聴ける。そしてライザミネリ(フランシーヌ)の歌が本当に上手い。賞を取ったのもうなづけるレベル。また、後半のミュージカルが「HAPPY END」という演目であり、このミュージカル自体すばらしい出来なのだが、これが痛烈すぎる皮肉として描かれる構造なのがまたすばらしい。演者は何を想いながらこの舞台に立っているのか…と考えてしまう。このミュージカルからラストまで一気に走りきるのだが、その展開はかなりウオオオオとなる。すっごい泣けるとか、強烈なサプライズがあるわけではないが、とても良い。なんというか、ハードボイルドというか。

監督はマーティンスコセッシ。ウルフオブウォールストリートの監督で、このサイコパス
こいつかー!と合点がいった。ほんと観ていて離席したくなるくらいのシーンもあり、危ういバランスの上に成り立っている映画だと感じた。1977年制作とのことだが、けっこう伏線というか、テクニカルな構造もあり、冗長なシーンも多いけれど全体としてはかなり良い映画だった。