マルチ商法の思い出

ネットでちょっと話題になった話に関連して。

 

20歳くらいで大学に通っていたころ、小学校の頃の友達から突然電話が掛かって来た。もう数年も会っていないやつだ。久しぶりでお互い大人になったし飲みにでも行かないかという電話で、おれも久しぶりにそいつに会えることが嬉しかったので会う事になった。そいつを篠宮(仮)とする。地元の駅前の飲み屋で会った。篠宮とは中学も別々だったので、久しぶりに会えて嬉しかった。酒が進み、どういう流れになったか忘れたが篠宮は、おれはいまビジネスをしている、すごいビジネスの師匠が居るのでOYNMKに会わせたいんだ、という事を言い出した。良く分からないがとりあえず会うだけなら、ということで、半分酔った頭で了解した。

 

その日はなにもなく解散したのだが、翌週の金曜の夜に突然篠宮から電話が掛かって来て「明日師匠に会わせたい」と言い出した。えっと思ったが予定も無いしということで了承した。翌朝7時頃に車で乗り付けて来た篠宮と共に、師匠が居るという都内の事務所に向かった。

 

その師匠は人当たりはとてもよい人物だった。30代前半くらいだったろうか。トークも上手かった。妻も子供もいるが、何もせず?月収50万?を稼いでいるという。その仕組みを懇切丁寧に喋ってくれた。当時は全く知らなかったが、今思い出すと100%マルチ商法だった。篠宮も、その師匠に話を聞いてすげぇ稼げるんだと知った、おれは親父を越えたいと思って今の仕事を頑張り始めている、まだ結果は出てないけど必ず勝ち組になれる、そういう風に熱く語っていた。まずは母親のために稼いでドラム式の洗濯機を買ってあげるんだ、そう言った。OYNMKよ、お前に夢ややりたい事はあるのか、そう聞かれた。当時は通っていた大学にあまり意義を感じられず、夢も無かったので、親父を越えるという夢があると言った篠宮を羨ましく思ったのは確かだ。そう素直に伝えた。そうしたら、それなら大学を辞めて一緒にビジネスやろうぜ、一緒に頑張ろうと2人ともサラっと言い放った。何故そうなる。

 

その後どういう話をしたのかはよく覚えていない。おそらくおれは曖昧に『考えておきます、今日は決められません』くらいの話でその場を凌いだのだと思う。そのとき直感的に『これは危ないな』と感じたのだろう。その日、篠宮と別れたあとはこいつからの電話を一切取らないことに決めた。なんとなくおれのゴーストが囁いた。何回か電話が掛かって来たがすべて無視した。そのうち連絡は来なくなった。15年以上経った今、篠宮が何をしているのかは分からない。なぜならこの前久しぶりに電話を掛けてみたら、『この番号は現在使われておりません』となっていたからだ。

 

今いる居場所を否定し、新しい場所はこれだけ素晴らしい、その素晴らしい場所で自分はこれだけ成功している、あなたもこれをするべきだ、というトークはいつの時代も変わらない詐欺トークの1つだ。今の境遇の不安や不満につけ込み、その不安や不満を感じていること自体は肯定しつつも自分の利益をもたらす環境に引きずり込む。そいつらは他人の人生をひっくり返そうとしていることに何にも責任感を感じていない。大学を辞めたり仕事を辞めたりと、そういう選択するのはあくまで提案されたそいつ自身の責任だからだ。そこで失敗しても『努力が足りなかったからだ』と言う事ができるからだ。そういう卑怯なやつらの行動については、昔も今も許すことはできない。