『その日のまえに』

久しぶりに重松清さんの本を読みたくなり買って読んだ。

 

“僕たちは「その日」に向かって生きてきた―。昨日までの、そして、明日からも続くはずの毎日を不意に断ち切る家族の死。消えゆく命を前にして、いったい何ができるのだろうか…。死にゆく妻を静かに見送る父と子らを中心に、それぞれのなかにある生と死、そして日常のなかにある幸せの意味を見つめる連作短編集。”

 

全編涙ドバーの短編集である。ほとんどの話が、重い病気を抱えた人とその周囲を舞台として紡がれる。別れの瞬間だけをテーマとはしておらず、表題に代表されるよう『その日のまえ』や『その日のあと』といった、続いていく人生にスポットをあてている。別れが確定しているのが分かっている未来を、ある人々は受け入れながら、ある人々は不安になりながら、ある人々は見て見ぬ振りをしながら生きていく。悲しみという重荷を背負いながらも日々を懸命に生き続ける人たちを見ていると、こちらも元気が湧いてくる。重い展開が多いが、それでも不思議と明るい希望がもてる話作りはさすがである。

 

この作者の好きな部分は、感情の表現しづらいことを、表現しづらいままのニュアンスを残しつつ伝わりやすい様に表現していることだ。今回もそういったフレーズが随所にあって、とてもよかった。

 

『ーージョギングだけは休まない。「こんな日に走るかなー、ふつう」と明日奈はあとであきれるだろうか。こんな日だから休みたくないんだと、いつかわかってくれるだろうか。

 つづけることはーーすごいんだぞ、と自分に言い聞かせた。始めることも終えることもすごいけど、こっちだって負けてないぞ、と付け加えて、生きてるんだから、生きてるんだから、と繰り返した。ーー』(『朝日のあたる家』)

 

収録作のうち『その日のまえに』『その日』『その日のあとに』は連作であるが、別の短編の主人公たちがニアミスしその後の人生が少し描かれているのが読んでいて楽しい。